『リゾートバイト』永江二朗監督インタビュー

 『リゾートバイト』とは2009年に「ホラーテラー」(怖い話投稿サイト)に初投稿、その後「2ちゃんねる」に再投稿されるとそのあまりの恐さと秀逸な展開で一気に話題となった。“禁忌の儀式”、“人外の存在”、“人間の業”などすべてのホラー要素が凝縮されており、多くの人々にネット都市伝説の集大成として現在まで語り継がれている。そんな『リゾートバイト』を長年、謎とされてきた投稿者の「日向麦」の協力を得て、スマッシュヒットした映画『きさらぎ駅』の永江二朗監督をはじめとするスタッフが再結集し、恐怖と驚きの仕掛け満載で映画化した。2023年10月20日公開。
 9/17開催、アメイジング映画部2にて、『リゾートバイト』出演の佐伯日菜子さんをゲストを招く事になり、永江二朗監督にもご来場いただきたかったのですが、スケジュールの都合でそれが叶わなかったのですが、単独でインタビューをとらせていただきました。
※イベントパンフレットに掲載したもの、こちらブログに転記しました。



映画の舞台は小さな島にある海岸の旅館。桜は幼馴染みの聡、希美とともに思い描いた通りのリゾートバイト生活を楽しんでいたが、ある日、使われていない筈の2階に夜な夜な食事を運ぶ女将の姿を目撃したことにより、事態は急変していく。「このリゾートバイト、何かがおかしい……」そう気づいた桜達を予想だにしない展開が襲いかかる。

出演:伊原六花 藤原大祐 秋田汐梨  松浦祐也 坪内守  佐伯日菜子 梶原 善
監督:永江二朗
原作:投稿者「日向麦」 脚本:宮本武史
主題歌:弌誠「しあわせレストラン」 挿入歌:miolly「残像」
企画/制作:キャンター 配給:イオンエンターテイメント
製作:映画「リゾートバイト」製作委員会
(イオンエンターテイメント/キャンター/BBB/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/バップ/山陽新聞社/フューレック)
上映尺:86分
©2023「リゾートバイト」製作委員会

公式サイト


永江監督がホラーものを撮るきっかけは?

 元々、2009年頃に、プロデューサーからデジタルとホラーを掛け合わせて、世界的に大ヒットした『リング』、『呪怨』とは違ったタイプの新しいJホラー作品を作ろう!という話が出てきたんです。その時は漠然と『デジ霊』なんていうタイトル案でしたが、その後、紆余曲折を経て最終的に“2ちゃんねるの怖い話を映像化した”という触れ込みの『2ちゃんねるの呪い』シリーズを作る事になりました。僕もそれで2ちゃんのオカルト版とか読み漁っていく中で、そこに誰も手を付けていない、映像化されてない怖い話がいっぱいある事に気づきました。それらが物凄い宝の山に思えたんです。
 『きらさぎ駅』を作った時、反響が大きくて、舞台挨拶に小学生がお父さんと一緒に来ていたりするんです。それで、その子供と話をしてみると、ネット怪談にすごく詳しくて、多分10歳くらいなのに「監督、八尺様(※)の映画作ってください。クラスで人気あるんですよ」とか言っていてびっくりしました。今の子たちは当然、2ちゃんねる自体知らないけど、スマホで検索したり、You Tubeを見たりして、そういうネット怪談がしっかり伝わっているんですね。

※八尺様 ネット怪談上の人気キャラクター。八尺(身長2.4 m)もあるワンピース姿の女性の妖怪

前作『きさらぎ駅』の製作経緯をお聞かせください。

 その前に撮った『真・鮫島事件』も2ちゃんねる怪談がモチーフです。リモートのマルチ画面上で5人のキャラクターの対話で物語が進行していて、実は最後まで登場人物たちは誰一人、直接対面で会話をしていないんです。これはコロナ禍を初めて本格的に描いた作品として、業界内で評価されました。新型コロナのパンデミックが始まった時に、映像業界としては、どうやって映画を撮っていこうかという状況に陥って、その真っ最中、とにかくコロナ禍のルールとテーマでホラー作品を一本作ろうと、急ピッチで準備して撮りました。結局、コロナはすぐに終わらなかったですけど。 
 作品は低予算にしてはヒットして結果を出せたのですが、一方で上野境介プロデューサーとエゴサしまくって、この『真・鮫島事件』の批判されているところを徹底的に洗い出しました。その中で最後の廃墟のシーンはいわゆるPOVスタイルなんですけど、「ホラーゲームっぽくて面白い」という声が結構あったんです。もう若い子たちはPOVホラー自体を観ていなくて、You Tubeで観るゲーム実況みたいに捉えていたんです。なるほどそういう見方をするんだと気づいて、じゃあいっそ次作『きらさぎ駅』は、『真・鮫島事件』の反省は活かしつつ、本人主観のFPSゲームみたいにしようとなりました。

たしかに「きらさぎ駅」の佐藤江梨子さんの主観シーンは、POVもの特有の手ブレ演出がなくて、ゲーム画面的ですね。

 そこを強く意識しました。画面がブレてしまうと、他のPOVホラーと変わらなくなってしまうので、佐藤江梨子さんの吹替で女優の道本成美さんに特注のカメラ付きヘルメットをかぶってもらい主観シーンを撮ったのですが、彼女は佐藤さんの代わりに芝居をしながら、カメラマンの役割もしなければいけないので、とてつもない作業を担っていました。あとでセリフを佐藤さんと入れ替えるにしても、ちょっと間が悪いとか、カメラがちゃんと捉えてなかったりとかで、いくら全員がいい芝居をしていようが、リテイクが出てしまう、これはかなりえげつない作業でした。本人主観なので、ズームで寄ったり引いたりもできないですし、僕自信もPOVホラーは何本も撮ってますけど、全然違うものでしたね。同業の方々から結構「あれ面白いですね」と言ってもらえたのですが、気軽に手を出したら大火傷する、全然おすすめできない手法です。

最新作の『リゾートバイト』についてお聞かせください。まずは元ネタになった2ちゃんねるの投稿者、日向麦さんを原作としてクレジットされていますが

 コンタクトの経緯や御本人についての仔細を語る事はできないのですが、日向麦さんとは直接お話もさせていただきました。凄く聡明な方でしたね。ネット上で偽物じゃないのか?みたいな事も書かれているのですが、当時の証拠や、詳細なお話を聞かせてもらって、投稿された『リゾートバイト』の大ファンでもある僕の目から見て、120%御本人であると、その事は強く訴えたいです。

キャスティングについて、エピソードはありますか?

 僕の場合は長年一緒にやってる上野プロデューサーにすべて任せています。今回、『リゾートバイト』では佐伯日菜子さん。『きさらぎ駅』では佐藤江梨子さん。どちらも元になった2ちゃんねるの投稿上で、凄いキーになる重要なキャラクターじゃないですか。佐藤江梨子さんの名前が出てきた時もめちゃくちゃ喜びましたし、今回、佐伯さんって決まった時にも、「それはいいなぁ!」って凄く思いましたね。お二人とも独特のムードを持たれている方なので。

●永江監督の作品は毎回いい廃墟が出てきたり、ロケ地の魅力が高いと思うのですが

 廃墟に関しては、いつもは制作部がロケハンして探してきてくれるのですが、今回の『リゾートバイト』は岡山県で撮ろうというのが決まって、上野プロデューサーと僕とで、フィルムコミッションさんからお話を聞いたりしながら、岡山県中、色々と周ってみました。その中で、個人的には白石島が圧倒的に良くて、ぞっこんだったんです。島での撮影は滞在費はじめお金が凄くかかるので、プロデューサー的には予算繰りに四苦八苦したと思うんですけど、結果的にOKを出してくれて、島で撮らせてもらえる事になりました。
 この『リゾートバイト』のお話って、旅館とお寺が主な舞台なんですけど、この白石島ロケはお寺も旅館も抜群に良かったので「あれ、こんな事ってある?」くらい恵まれていましたね。

今回は「絶対に先が読めない86分」というキャッチコピーですが

『きさらぎ駅』を観ていただいたら分かるんですけど、元ネタをベースにはするんですが、映像用に書き直したり、付け足さないと映画にはならないんです。『きさらぎ駅』は元々、投稿者のはすみさんが異界駅に降りて2ちゃんねるで呟いていた投稿という体裁なんですけど、映画ではもう最初から圏外って設定に大きく変更しました。ネット怪談って短いお話ですから、それだけだと映画にならないんです。『リゾートバイト』も投稿上は凄く長い話なんですけど、やっぱり映画の尺ほどの話ではありません。映画化にあたっては元投稿の素晴らしい要素はなるだけ盛り込んではいるんですけど、やっぱりそれだけでは成立しないので、今回も『きさらぎ駅』同様に上野プロデューサーと脚本の宮本武史さんと一緒に何十稿も書き直して、取り組みました。

●予算は前回からUPしているのですか?

 はい。『真・鮫島事件』、『きさらぎ駅』、『リゾートバイト』と、予算はどんどん上がっています。鮫島もかけた予算に対してはヒットでしたし、『きさらぎ駅』はもちろん当たりましたし、そのおかげで今回も予算を上げてもらえました。ただ、ヒットはしましたが『きさらぎ駅』って、低予算であるとかCGがチャチいとか、色々声はあるんです。それで、そうやって批判しているお客さんに、「今回は面白かった」と言わせる作りを『リゾートバイト』は目指しました。最初に出た話に戻りますが『真・鮫島事件』の反省で、『きさらぎ駅』を作って、今回も『きさらぎ駅』の反省を『リゾートバイト』に活かしていますので、是非その進化を観て欲しいですね。

●1979年生まれの監督が影響を受けたものは、どういったものでしょう?

 ‘80年代後半から’90年代、ハリウッドの大作系が大好きです。ど直球にバック・トゥ・ザ・フューチャーやインディ・ジョーンズ 、シュワルツェネッガー、スタローン、エディ・マーフィー、ジャッキー・チェンという感じです。当時、『ジュラシック・パーク』が公開された時に、方や日本映画は『REX 恐竜物語』で、正直、申し訳ないですけど、日本映画は全然好きじゃなかったんです。俺はハリウッドの超大作が大好きだ!みたいな子供でした。

●自身にとって“ホラー”のルーツは?

 色々TVでやっていた中で、一番印象に残っているのは『バタリアン』。翌日学校行ったら、みんなでバタリアンごっこをやってるんです。「脳みそくれー」って追いかけてくる鬼に捕まったらそいつもバタリアンになってしまう、バタリアン鬼ごっこ。そういうのをやるくらい大人気で。『バタリアン』ってコメディ風味の映画ですけど、まだ小学校の低学年なので、やっぱり怖いんです。で、震え上がりながらも観てしまう。
 そうやってハリウッドホラーは大好きだったんですけど、邦画のホラーは全然好きじゃなくて、高校生くらいの時に『リング』、次に『呪怨』を観た時に、日本のホラーってこんなに怖いんだ!って衝撃を受けたんです。
 そこからJホラーを観るようになって、『着信アリ』や『女優霊』も凄く怖かったんですけど、以後、それらを超える作品がなかなか出てこなくて…。なので、自分が監督になった時に、なんとかあのJホラーブームをもう一回!っていう、もちろん今もその思いはありますね。

2023年9月4日 新宿にて 取材:白石知聖


永江二郎監督

1979年生まれ、兵庫県神戸市出身。株式会社キャンター所属。
2011年「2ちゃんねるの呪い劇場版」で監督デビュー。「ニコニコ生放送・ホラー百物語」にて「リング」「呪怨」「着信アリ」など厳選されたホラー100作品の中からNo.1評価に輝いた「心霊写真部」や「リアル鬼ごっこ」で知られる山田悠介原作の映画「骨壺」ほか数々のホラー作品を手掛ける。主演・吉沢亮で実写化した500万部を超える人気漫画「トモダチゲーム」3部作が好評を博し、2022年公開の映画「真・鮫島事件」(主演/武田玲奈)でネット怪談シリーズの監督を担当。第2弾・映画「きさらぎ駅」でスマッシュヒットを記録して、今、もっとも注目されるホラー監督となる。

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